アメリカでは6月から9月までの長い夏休みに子供たちをサマーキャンプに入れる。アメリカ全土には小規模から大規模までさまざまなサマーキャンプがある。親たちは自分の子供たちに合ったキャンプを選んで入れるのだ。

私の長男が高校2年生の時、アメリカのサマーキャンプに入れた。ネットが普及しだした頃でいろいろなキャンプを比較検討し、西海岸の施設も整ったところを選んだ。キャンプも中には小規模で着いた途端からテント生活に寝袋というところもあるから要注意だった。日本からはるばる飛行機に乗り、着いたらテントというのは疲れることだ。

サマーキャンプに申し込み、準備もけっこう大変だった。はしかや3種混合などすべての予防接種済みの証明、健康診断書、歯医者の医師の名前なども提出しなければならなかった。持ち物はキャンプ用バッグやアルファベットの名前を注文し、長い白い布テープに印刷された名前を切ってすべての持ち物に付ける作業、まるで幼稚園に入る前の準備並みだった。3ヶ月前から地元の国立大学に留学しているオーストラリア人学生に家にきてもらい、英会話の特訓もさせた。

費用も2千ドルくらいかかったし、往復の飛行機代も8月の一番高い時の料金だった。サンフランシスコで税関にかかり、カリフォルニアの小さい町へさらに飛行機を乗り継ぐので航空会社の子供サポートサービスに依頼し、無事乗り換えられるように手配もした。カリフォルニアの小さい町に着くとキャンプ従業員が迎えにきてくれることになっている。到着した夜、事務局から無事着いて今は自分のベッドで寝ている、とファクスで知らせが入り、ほっとした。

出発当日の朝、私の妹が車で空港へ連れていくために迎えにきてくれた。当日の朝、長男は浮かない顔をして、突然行きたくない、と言うではないか。私はこのキャンプのためにどれだけ準備し、お金を遣ったか!ここでドタキャンなんて許されない!と強引に車に乗せた。妹は行きたくないというなら止めたら、と言う。私はここで止めたら、どんなことも許されると思ってしまい、教育にならない、と空港まで強行した。航空会社のカウンターに行くと子供サポートサービスの女性が子供だけでアメリカへ渡航する他の子供たちのところへ連れていってくれた。ほら、見てごらんなさい、あなたより小さい小学生や中学生がひとりだけでアメリカへ行くのよ、高校生のあなたが行けないわけないでしょ、と言うとやっと納得してようやく税関の向こうへ行ってくれた。

それから2週間、すっかり日焼けして帰ってきた。とっても楽しいキャンプだったようだ。日本語は通じず、英語も多少は達者になったという。帰りにキャンプ経営者がキャンプ場から自家用飛行機でカリフォルニアの小さい飛行場まで送ってくれたというではないか。その請求書が後からくるのではないかとヒヤヒヤしたが、来なかった。好意で送ってくれたようだ。

反抗期で父親に口もきかなかった長男が帰ってくると父親になんのこともないおしゃべりをしだして夫は「おい、彼が話しかけてきたぞ!」とうれしがっていた。効果はあったようだ。男の子だからあまり詳しい報告はしないが、彼にとってとってもいい体験をし、いい影響を与えたと今でも思っている。